六月大歌舞伎 第三部『日蓮』観劇記
2021.06.18
歌舞伎
「日蓮」
御仏(みほとけ)の御教(みおし)えに愚直にも随順(ずいじゅん)し、
襲い来る法難(ほうなん)を物ともせず、
身命(しんみょう)すらも御仏に捧げ、その人生を駆け抜けた聖者(せいじゃ)日蓮(にちれん)。
スーパー歌舞伎II『ワンピース』を手掛けた脚本家・横内謙介氏と歌舞伎俳優・四代目 市川猿之助氏がタッグを組み、
その崇高な御姿が歌舞伎として、現代に蘇えります。
四代目 市川猿之助 (よだいめ いちかわ・えんのすけ)
立役から女方まで幅広く活躍。確かな実力で、最も目が離せない歌舞伎俳優の一人。叔父・市川猿翁(三代目猿之助)は昭和に一時代を築いた「スーパー歌舞伎」の創始者。斬新な企画力と身体能力の高さで、たちまち人気を博した。そのパイオニア精神を受け継ぐ澤瀉屋の若きリーダーが「四代目市川猿之助」。スーパー歌舞伎II『ワンピース』を成功させたプロデュース能力もさることながら、『義経千本桜』では当り役の狐忠信以外にも、典侍の局、娘お里というキャラの違う役を演じ切る。『荒川の佐吉』では人生の哀感を見せ『黒塚』などの舞踊も抜群。
横内氏この度、令和3 年6月歌舞伎座「六月大歌舞伎」の1 演目『日蓮』の脚本・演出を担当することになりました横内と申します。私事ですが、父はお経を自分で読むくらいの熱心な日蓮宗の檀信徒でした。私自身も幼い頃に父に連れられ、この身延山を参拝したことがあります。今日、内野法主猊下にお会いする前に、菩提梯を登ったのですが、その時の記憶が甦ってきました。疲れましたが、修行をさせてもらえたと思い、嬉しい気持ちです。
内野法主猊下それは大変なご縁だと感じます。日蓮宗とご縁がある横内先生が脚本を書くことに決まっただけで期待してしまいます。さらには市川猿之助さんという素晴らしい役者さんを迎えられたのも本当にありがたいことです。聞くところによりますと、今回の歌舞伎の公演が決定するまでに関係者の方々の並々ならぬご苦労があったそうですね。だからこそ日蓮聖人のお導きがあり、横内さんや猿之助さんと強いご縁が結べたのだと強く感じている次第です。
横内氏私もそう感じています。お話自体はずいぶん前にいただいたのですが、2年後のことは今は決められず、スケジュール感の違いを感じました。でも私は先ほどの父の話もありますし、ご縁は感じていました。また猿之助さんも仏教や仏像に造詣が深い方なので、宗教家を演じることに興味を持っていたようです。
持田総務かれこれ約40年前、私は日蓮聖人第700 遠忌でいろいろと行事を企画実行する報恩奉行会の事務局長を務めておりました。そのときには前進座劇団に嵐圭史さんを主演に「日蓮」を公演してもらいましてね。全国を巡って公演して、すごく評判が良かったことを昨日のように覚えています。今回の歌舞伎も楽しみにしているのですが、演目の内容はもう考えていらっしゃるのですか?
横内氏まだ日蓮聖人のことを学び始めたばかりで、何も見えていません。ただ、先日、身延山大学の木村中一教授に日蓮聖人の伝記などの指導を受け、実にドラマチックな生き方をされた方なんだな、ということは感じました。例えば大きな法難に何回か遭われましたが、そういった場面はお芝居にしやすいのではないかと思っています。今回の演目は猿之助さんと一緒に作り上げていくと思うのですが、もともと澤瀉屋一門は、外連といって、奇抜な演出を得意としています。あとは早替りとか一人七役とか。一人の役者が男にもなるし、お坊さんにもなれる。お客さんを退屈させない、そういったところが日蓮聖人のドラマチックな人生はすごくマッチするのではないかと思います。最近は新しい技術も増えているのですが、古い技術にはテンポ感が出て、そういった演出を上手にミックスさせたり、取り込んで芝居を作っていければと考えています。
内野法主猊下そういった話を聞くと、ますます横内さんを迎えられて良かったと思います。実は身延山では現在、共生共栄運動というものを展開しておりまして、事業の1つとして日蓮聖人のオペラを制作しています。持田総務が何度も作詞家とやり取りして、練り上げているものですので、ぜひ参考にしていただければと思います。
持田総務音楽布教の導入というものを進めておりまして、その一環としてのオペラです。日蓮聖人は強い僧侶として描かれることが多いのですが、私が表現したかったのは、いつも誰かに心を寄せる日蓮聖人です。お祖師さまはそういた面を多く持っていらっしゃったのに、世間の人には浸透していません。そのような部分も横内さんに知っていただければと思います。
また日蓮宗には昔から高座説教とう伝統があります。僧侶が高座に座って笏を叩いて講談のような「繰り弁」という説法をする文化があります。日蓮聖人のご一生の場面がすべて高座説教にはありますので、これもぜひ参考にしていただければと思います。
横内氏日蓮宗にそんな文化があるんですか?ぜひ参考にさせていただきます。オペラも制作中なんてすごいです。20年も前から歌舞伎の脚本を書かせていただいていますが、本当は専門ではないんです。でもおかげさまでスーパー歌舞伎II(セカンド)として書き下ろしたマンガが原作の『ワンピース』も大変好評を得ました。ぜひ同じように話題となって、日蓮聖人の魅力を知ってもらう作品に仕上げていきたいと思います。
内野法主猊下ご期待申し上げます。観客の方々に日蓮聖人の御心が伝わり、胸を打つような演を楽しみにしています。身延山を代表して心からお願い申し上げます。
横内氏はい、頑張りたいと思います。本日はありがとうございました。
横内謙介 (よこうち・けんすけ)
1961 年9 月22 日、東京生まれ。劇作家・演出家。劇団「扉座」主宰。神奈川県立厚木高校在籍時、名義貸しで演劇部に入部。先輩に奢られ、つかこうへい事務所の「熱海殺人事件」を観て芝居に目覚める。処女作「山椒魚だぞ!」にて演劇コンクール全国大会出場。1982年、早稲田大学第一文学部在学時に、厚木高校演劇部員だった岡森諦、六角精児、法政二高の部員だった杉山良一らと劇団「善人会議」を旗揚げ。’93 年「扉座」と改名、現在に至る。劇団活動とともに、スーパー歌舞伎、ミュージカルなど、外部への作品提供多数。’92 年、第36 回岸田國士戯曲賞を『愚者には見えないラマンチャの王様の裸』で受賞。’99年スーパー歌舞伎『新・三国志』で大谷賞を史上最年少で受賞。2015 年スーパー歌舞伎II『ワンピース』で大谷賞を再び受賞
2021.06.18
「あんのん基⾦」は、⼈々の笑顔を増やす⼤切な基⾦です
すべての人の苦しみを除き、喜びを願う気持ち。これは、仏教徒の基本精神です。日蓮宗では、このように他者の幸せを願い、そのために自らが行動する慈悲の精神にのっとり、社会活動を支援しています。
「あんのん基金」は、様々な社会活動・地域貢献・国際協力を行う団体や活動を支援する大切な基金です。戦争、天災、貧困、環境などの諸問題に対峙する世界中の方々へ、民族や宗教、文化の違いを超えて最も有効な支援を届けること。そして明るい社会を育て、人々の絆と笑顔を増やしていくこと。一人ひとりの小さな善意がこれらを実現し、明るい社会をつくる大きな一歩となります。
日蓮宗では、教師・檀信徒はもとより、多くの方々に広く支援を呼びかけてまいります。
皆様のご理解とご協力をお願い申し上げます。